緊張や興奮が緩んだ瞬間は注意力や警戒心が減少する心理効果「テンション・リダクション効果」。この記事では、マーケティングの観点から、購入点数アップや追加買いを促進する施策としてのテンションリダクション効果を説明しています。
高い買い物の後には財布の紐が緩む。
テンションリダクション効果とは、「テンンション(tension)=緊張」が「リダクション(reduction)=減少・消滅」することで、注意力が疎かになり無防備な状態になることです。
マーケティングでは特に販促シーンで多く活用されます。
典型的な例として、家や車など金額が大きい買い物の直後には、判断基準が曖昧になり、オプション品などを勧められるままに購入をしてしまうことがあるというものです。
人は、モノやサービスの購入を決めた時、または決済を済ませた時には、購入前の緊張状態が緩み、気が緩んでいる状態になっています。そこで店側は、その時に他の商品(関連商品)を紹介することで、購入促進を狙います。
例としては、ネットショップで商品をカートに追加した直後のページで同じカテゴリや関連商品、付属品の消耗品など関連性の高いものが表示されるものです。
ネットショップの場合、購入までに様々な比較検討をしたと思われます。その後に「カートに入れる」という心理的なハードルをクリアしているため、緊張感が緩み、提示された商品を追加購入しやすくなります。
実店舗では、接客対応や近くの陳列によって「追加買い≒ついで買い」を誘発する(=クロスセル)施策は良くあります。
テンション・リダクション効果による追加買いはそれとは少し区別して考えましょう。
単なる購入点数のアップではなく、購入者の気持ちの緩みを利用するところがポイントで、特に、メイン商品が高額である場合や、メイン商品と関連商品に大きな価格差がある場合に効果を発揮します。
例えば、ファーストフード店で毎回ポテトを一緒にすすめる手法がありますが、慣れている購入者なら、緊張感はなく、自分の欲しいもののみを最もお得な価格で買う方法をとるでしょう。
しかし、初めて利用する店だったり、店のシステムに慣れていなかったり、高級ブランド店だったり、その人にとって緊張感ある場面で購入を決めた時、店員から推奨を受けると、それに従ってしまうことが多いのではないでしょうか。
テンションリダクション効果は、このように、単に購入点数を増やしてもらうというよりも、他ブランドと比較されずに狙った商品を推奨できることを意識すると良いでしょう。
【例】
・関連備品として、同ブランドのアイテムを勧める
・店舗が特に推している商品を勧める
テンション・リダクション効果は、実際の購買シーンにおいて、他の心理効果ともよく結びついています。
高額な商品やサービスを購入したことで、その価格がターゲット顧客の中では基準価格となるアンカリング効果が働きます。テンション・リダクション効果で、その後に勧められるオプションや関連商品へのハードルが低くなっていることに加えて、アンカリング効果で設定された基準価格からみるとそれらの商品が安く見えて、さらに買いやすくなるという効果が生れます。
「よく一緒に購入されている商品」などの文言は、“みんなも買っているから”という安心感が生まれるバンドワゴン効果が利用されています。
希望する商品やサービスを購入したことで、テンション・リダクション効果が働いた状態で、このようなおすすめ商品をみると、警戒心が薄れていることからバンドワゴン効果がさらに強く働き、「この機会に買っておいていいだろう」と思いやすくなります。
ネットショップなどでは「あと〇〇円分購入すると送料無料(△%割引き)」という施策がよくあります。このような場合、購入者が「あと〇〇円買わないと損をする」、「得を逃したくない」という気持ちになるのが損失回避の法則です。
購入を決定していることからテンション・リダクション効果が働いていて、追加で買うことへの抵抗感が薄れ、追加購入をしがちです。
テンションリダクション効果の活用商品ジャンルとしては、「追加買いが起きやすい商品ジャンル」とその関連商品を幾つかピックアップしてみます。
理論上は、高額商品である家や車が代表例ですが、より日常的な商品群でも、追加買い・ついで買いは多く発生します。
オーブンレンジを買った時に追加買い
・レンジ対応調理器具
・料理保存容器
・料理レシピ本
エアコンを買った時に追加買い
・クリーニンググッズ
パソコン本体を買った時に追加買い
・ウイルス対策ソフト
・保守サービス
・リストレスト・マウス・スピーカー
・クリーニンググッズ
・ブルーライトカットグッズ
照明機器を買った時に追加買い
・スペア電球
特に販促のシーンにおいて、テンションリダクション効果が働きやすい時期は、もともと出費が多くなる時期です。
たとえば、卒業・入学、新生活や引っ越しのある3月~4月、夏休みの7月~8月、年末の12月などが挙げられます。必要なものを揃えようとするので、ついで買いや衝動買いが多くなりがちです。
また、これらの出費が嵩んだ時期の後(1月~2月、6月、9月など)は、財布の紐がかたくなりがちです。
大きな商戦シーズンにはテンション・リダクション効果を意識した施策を盛り込み、その直後には、別の狙いをもった販促施策を企画することが効果的です。
※心理学の作用は、マーケティング企画が必ず成功するなど、すべての人の行動に当てはまるものではありません。多くの効果にはその逆に当たる現状がと存在します。あくまでも、マーケティングの施策を検討する際の一つの考え方・方向性として活用してください。